閉鎖

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番外編その1
 〜学園祭編〜

 

「すげー、マジで美人になってやがる!」
「そ……そりゃどうも」
 俺の目の前ではクラスの連中が目を輝かせて騒いでいた。
 学園祭が間近に迫ったある日の夕方、俺は亮介に施されたメイクを衣装と合わせてクラスの連中に「お披露目」することとなった。何かをする前から自信満々な亮介はともかく、俺は事前に鏡で確認したとはいえブーイングの嵐を覚悟しつつ教室に入ったものの、なぜか教室内は歓迎モードになっていた。これも亮介のメイクのおかげってことだろうか。
「加賀見君はどんな格好しても可愛いけど、水瀬はその格好と化粧だと美人の姉ちゃんって感じだなー」
「まさかここまで変わるとは思わなかった……水瀬ってよく見れば顔もいいしなぁ、ちょっと羨ましいかも」
 俺の前を陣取っている連中は口々に勝手なことばかりを言う。こっちの苦労も知らないで、のんきな奴らだな。
「皆さん、気に入ってくれたかな? 当日はこの格好で挑もうと思ってるから、よろしくね」
「おう!!」
 亮介の爽やかな科白の後に一致しすぎた返事が部屋じゅうを埋め尽くした。こいつら気合い入りすぎて怖いわ。そんなに亮介の女装が良かったのかよ。
 仕事を終えた亮介はさっさと教室を出て行ってしまった。俺も慌てて彼の後を追おうとしたが、部屋を出る直前にぐいと腕を引っ張られてしまう。
「え、な、何?」
 引き止めてきたのは調理担当の三宅だった。こいつとは特に仲がいいわけでもなく、かといって嫌ってるわけじゃない。いわゆる普通のクラスメイトの関係だ。そんな彼が俺の顔をじっと凝視してくる。
「水瀬……お前に頼みがある」
「だから何だよ、俺もう部屋に帰りたいんだけど」
 メインイベントが終了した為か教室内は徐々に人が減り始め、なかなか用件を言わない三宅に止められている隙にほとんどの生徒が帰ってしまったようだった。ざっと周囲を見回しても、今や俺を含めて六人しかいない。つーかお前らもさっさと帰れよ。
 俺がきょろきょろしていたのがいけなかったのか、三宅は正面からばっと肩を掴んできた。そして思いっ切り顔を近付けられ、低い声ではっきりと俺に告げてくる。
「触らせてくれ」
「……は」
 唐突に胸の辺りを触られた。というよりも押さえ付けられた。おかげでふっくらしていた服がへこんだ。
「あれ? お前……ぺったんこだぞ」
「いや、何の話――」
「だって女装してるってことは胸に何か入れなきゃならないだろうがっ! それがなんで何も入ってないんだよ、お前絶対おかしい!!」
「はあ?」
 何やらよく分からないことを三宅は言っていた。別に世の中にはぺったんこな女の人だっているんだから、おかしいってことはないだろうよ。こいつはどんな夢を見てたんだ。
「ええー、水瀬、胸入れてねぇの? 幻滅だわー」
「今からでも遅くないから入れろって! な!」
 三宅の声を聞いていたらしい他の連中もぞろぞろと集まり始め、すぐに俺は五人のクラスメイトに囲まれてしまった。いくらなんでも夢の見すぎだろ。そもそもなんで俺がこいつらを喜ばせてやらなきゃならないんだ。
「客寄せにはナイスバディーの方が効果あると思うぞ!」
「けど亮介もそういうことはしてないみたいだったし……」
「加賀見君は加賀見君のやり方でいいんだよ、彼は可愛い担当だから! お前は仮にも美人担当なんだから、せくすぃーな方が釣り合ってるだろ!!」
 やたらと気合いの入っている連中はどうにかして俺に胸を膨らませて欲しいらしい。しかし実際問題、これ以上服が窮屈になるのはどうしても避けたい事だった。今でさえ呼吸が苦しくなる時があるってのに、なんで男どもの欲望を満たしてまで苦労しなきゃならないんだよ。
「お前らが何を言おうと俺はやらねぇぞ」
「この薄情者! 俺たちの夢を壊す気かー!」
「あのなぁ、お前ら恥ずかしくねぇのかよ」
 なんとかなだめようと頑張ってみるものの、俺の前を陣取った五人は諦める気配が全くなかった。どうしたもんかね。
「よーし分かった、水瀬がそこまで言うんなら俺たちも諦めよう。ただし、それには条件がある」
 散々騒いだ後に言い出しっぺの三宅が場をまとめ始めた。こいつ明らかに怪しいことを企んでる顔してるぞ。逃げる準備でもしておいた方がよくないか?
 などと訝しく思いつつ相手の顔を見ていると、急に後ろから誰かに抱き付かれた。はっとしてそちらに顔を向けると、五人のうちの一人がいつの間にやら背後に回っていたようだった。
「お前、何すんだ――」
 同級生とはいえ多勢に無勢、あれよあれよという間に俺は彼らの手で転がされてしまった。誰かの机の上に仰向けに寝転がされ、そのまま倒れ込んできた相手に唇を塞がれる。そして団結した他の連中に両腕を掴まれ自由が奪われてしまった。
「おいお前ら、俺が男だってこと忘れてるだろ! 目を覚ませっ!」
「確かにお前が加賀見君じゃなくて水瀬だってことは大きいマイナスポイントだが、その外見なら全然許容範囲だからいいのさ!」
「わけ分かんねーこと言ってんじゃねぇっ!!」
 服に付いていた小さなボタンが一つ一つ外されていく。すぐに胸元を開かれて肌が露出してしまったが、それよりも俺は隣でベルトを外している奴の手を見てぞっとした。
「お、お前ら……本気かよ? やめろって、俺は――嫌だ!」
「えーなんだよ、いいじゃん別に。妊娠するわけでもないんだからさー」
「そういう問題じゃないだろ!」
 手が震えていた。はっきり言って怖かった。いつも同じ空間で同じものを見ていた仲間だと思っていたのに、こんなところで裏切られるなんて悲しかった。みっともないとは思っているけど、じわじわと視界が歪んでいくのを止めることができない。
「あー分かった、分かった。そんなに嫌なら、お口だけにしよう」
「く、口……?」
「そう」
 ぐいと身体を起こされ、机から下ろされて床の上に座らされた。そして五人のうちの一人が俺の前に立ちはだかる。
「お口でしてくれたら他のことはしないからさー、頼むよ水瀬。これでも結構溜まっててさぁ」
 顔を上げる勇気が出なくて、俺の前にいる相手が誰なのかは分からなかった。だけどその相手はベルトもズボンも脱いでおり、既に角度を持ちつつあるそれを俺の顔に押し付けようとしていることだけはよく分かった。
「そうそう、加賀見君はお金払わないと相手してくれないし、かといって俺らってそんなに金持ちじゃねえし、いろんなもんが溜まってんだよ。お前だってこの気持ち分かるだろ?」
「わ、分かんな……」
「いいからしろって!」
「んん――っ!」
 小さく開けていた口に彼のそれを突っ込まれる。嫌悪感が背中を走り、だけど頭と身体とをたくさんの手で支えられているせいで逃げ出すこともかなわなかった。
「ほらほら水瀬、ちゃんとしてくれってば。お前が頑張ってくれたらすぐにでも解放してやるからさぁ」
 手で頭を揺らされ、俺の意思とは関係なしに口の中にそれが出入りする。若い相手だからか口の中が窮屈になるのにそれほど時間はかからず、しばらく喉の奥を汚された後に大きくなったものをようやく抜いてくれた。
「嫌そうな顔してんなー、お前」
「こんなこと、嫌に決まってんだろ! 俺を亮介と一緒にするな!」
「けどお前の口の中、気持ち良かったぞ。だからさ、お前の方からしてくれよ」
 俺の身体は五人の同級生が取り囲み、どう頑張ってもここからは逃げられないらしかった。俺だってバカじゃないからそれくらいは分かる。だとすれば、この状況を終焉に向かわせる道は一つしかなく、とんでもなく嫌だったけど連中の望みを叶えてやらなければならないようだった。
「分かったよ、やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」
「おお、ようやくやる気になってくれたか! よーしじゃあ頼むぜ!」
 まったく、嬉しそうにしやがって。なんだか今は亮介の気持ちが分かるような気がするな。
 改めて相手のそれと向き合ってみたが、やはりこんなものを口に入れると考えただけで抵抗感があった。でもここで渋っていたらそれこそ夜中まで解放されそうになかったので、もう頭の中は真っ白にして、思い切って自分から咥えてみる。
「んっ……」
 無理矢理入れられた時はただただ嫌だったけれど、自ら咥えてみたらその異様さが際立って脳裏に伝わってきた。そもそもこんなことをしたのは初めてだし、あの日の亮介との交わりだって俺がされる側だったわけだから、正直どうしていいか分からないところもあった。とりあえず亮介の見よう見まねで舌を動かしてみる。
「うわっ、水瀬! お、お前……なかなか上手いぞ!」
「マジで? さてはお前、隠れて練習してたな? 相手は――ま、まさかとは思うが、加賀見君とか言うんじゃねえだろうなっ!!」
 勝手な妄想を爆発させている奴もいたが、それがあながち間違ってないことを考えると反論できなかった。聞こえなかったふりをして口と舌の方に意識を集中させておくことにする。
「はぁっ、ふぅ……っ」
 亮介のやり方を思い出しつつ舌を動かす。自然と口内には唾液が溢れ、それは止める暇もなく唇を伝って床にまで到達したようだった。その跡を拭うこともせず俺は口での「ご奉仕」を続ける。
「おーい、そろそろ交代してくれよ」
「ええー? いいところだったのに」
「あと四人いるんだぞ、一人占めは禁止だっての!」
 口を支配していた大きなものが消え、別の新たなものが俺の前に君臨した。もう何も考えることもなく俺はそれを口に入れる。
「んんっ……ふ、は……っ」
「おおー、やるねぇ水瀬。気持ちいいぞ」
 こんなことで褒められてもさっぱり嬉しくなかった。一度口から抜いて手でも扱き、硬くなってくると下から上へと舌を這わせる。全身をしっかり湿らせた後は口の中に入れ、先程と同じ要領で相手を悦ばせ始めた。
「あのさぁ水瀬、もっと音立ててやってくれないか?」
「ん――こう?」
 上から降ってきた要望を叶えてやる為、俺はわざと唾液を出して音を誘導してみた。思えば亮介にされた時も小さく音を立てていたような気がする。初めての試みだったけどそれはなかなか上手く出来たようで、何やらとんでもなくやらしい感じの音が絶えず口から零れ落ちるようになった。おかげでこっちまで恥ずかしくなってしまう。
「おい、交代だぞ。次は俺だ」
「待てよ、俺が次だって」
 目の前の連中は夢中になって俺の口を取り合っているようだった。本来なら複雑な心境になるべき場面なんだろうけど、頭がぼんやりしているせいで特に嫌だとは思えなかった。
「じゃあ二本同時ってことで」
 あろうことか二つの棒が押し付けられ、相手の意図を察した俺は口を開いて舌を出した。先端部分を中心に舐め、一方を口に咥えてもう片方は手で扱く。どうしてだか舌と手に伝わってくる相手の硬さが心地よく感じられた。試しに喉の奥まで咥えてみると苦しかったが、上から頭を押さえ付けられてなかなか解放してくれなくなってしまった。
「水瀬、腕上げてみてくれ」
 今度は斜め後ろから声が聞こえ、命令通りに腕を上げると肩の辺りの服をはだけられた。腋の下まで下ろされ、毛も剃ってつるつるになっているそこに後ろから男の硬い物を挟み込まれる。
「ちょ、ちょっとお前、何して――」
「いい腋してんなぁ水瀬。んー」
 挟み込んだまま相手はそれを腋で激しく擦り出した。もともと俺の唾液が付いていたのか滑りは良く、背中に彼の身体が当たってうるさい音を立てていた。
 腋に気を取られていると正面にもう一人の誰かが立ちふさがっており、俺はまた口の中に相手のものを入れられた。左右には唾液で濡れているそれが並んでいて、腋を締めたままの格好で二つの棒を手で扱く。
 今の自分の姿が信じられなくて、こんな頭じゃ想像をすることさえ困難だった。なぜだとかどうしてだとかって言葉はいくらでも溢れてくるのに、本気で逃げ出したくなるほど嫌悪を感じていないこともまた事実であり、俺の身体を使って興奮している青年を見て歪な快感を得ているのかもしれなかった。それを示すかのように手や口や腋で感じる硬さはたくましく思え、その湿った熱さが俺の感覚を麻痺させていく。亮介はいつもこんなものを感じていたのだろうか。だとしたら、病み付きになって戻れなくなるのも分かるような気がした。
「ん、ふぁ――っ!」
 命令されることもなく三つの棒を舐めまわしていると、唐突にはっきりとした快感が走って思わず口を離してしまった。現在俺の身体を囲んでいるのは四人であり、どうやら残った一人が俺の下半身に手を伸ばしたらしい。そこを強い力で刺激されている。
「すげぇぞ水瀬、お前のでスカート捲り上がってたぞ。ていうか下着まで女の子のやつ使ってんだな」
 山辺に渡され亮介に無理矢理穿かされた下着がついにばれたらしく、立派になっていた俺のそれが短いスカートを捲り上げていたらしい。考えただけでも恥ずかしい話だったが、今は余計に興奮させる材料にしかならなかった。
「てめ、さ、触んな……!」
「俺が触る前からこうなってたけど? お前実はこういう趣味があったんじゃね?」
「そんなわけ――」
 ふと前に並んでいた一人が少し移動し、俺の真横に立ったようだった。そこから手を離して下半身を執拗に触ってくる相手の腕を掴む。頭ではやめさせようとしているはずなのに、俺の手には思うように力が入らず、結局上下に揺れる相手の腕を掴んだまま何をすることもできなかった。
 身体全体から力が抜けていく様を感じ取りながら、だけど強い刺激のせいで言い様のない気持ち良さを感じる。気が付けば俺は自ら前にいる相手のそれを口に入れていた。腋に挟まっている硬さに興奮しつつ、機能しない制止の手は離して口での奉仕の補助に回す。いつの間にか誰もが黙り込んでいた。どれほどの時間が流れたかは分からないけど、教室の中は小さな喘ぎと俺の口から漏れる唾液の音で満たされていた。
 くいと髪を引っ張られた感覚があった。はっとして目を動かすと、俺の横に立った誰かが自身のそれに髪を絡ませているらしかった。カツラを付けているとはいえ、当然その中には俺の地毛も混じっているわけであり。
「バカ、髪が汚れるだろうがっ……てか、このカツラ、当日も使うんだから……よ、汚すんじゃねえっ!」
「なんだよ、髪もカツラも洗えばいいじゃん。明日使うってわけでもねぇんだしさぁ……んっ」
「え、えっ?」
 話していた相手の手の動きが目に見えて速くなる。まさかこいつ、俺の髪とカツラでいくんじゃないだろうな? そんなことしたら確実にカツラが汚れるし、部屋に帰った時に絶対亮介に感付かれるはずだ。それだけはどうしても避けなければならない!
「やめ、やめろって! その手を離――んんっ!」
 口に違う奴のものが無理矢理押し込められる。前から乱暴に口の中を犯され、同時に腋と髪も犯された。しかしそれは先程と比べて長くは続かず、髪で扱いていた奴の手が止まったことにより口は解放されることになった。ただ頭部に熱いものがかけられた感触だけははっきりと分かってしまった。
 髪を伝ってどろっとした白い液体が肩に滴り落ちてくる。
「お前、大分溜まってたんじゃね? 出しすぎだろ」
「んー……最近金欠だったから」
 出し終えてすっきりした相手はさっさとズボンを穿き始めていた。ずいぶんとあっさりした奴だな。やること終えたらもう用無しってか。だけど世の中そういうことが多いのかもしれない。
「こらこら、よそ見してる暇なんかないぞ?」
「あ、ちょっと待っ……!」
 ぼんやりと離れていく奴を観察していたら、腋に挟まっているものがいっそう激しく擦ってきた。後ろから何度も突かれ、下半身も弄くり回され、口には再び入れられた。その動作のどれもが始めた時より激しさを増しており、幾度も全身に電光のようなものが駆け巡っていく。ここがどこなのか、自分が何をしているのかさえ分からなくなりそうなほど、もう何も考えられなかった。
 擦られすぎて慣れてきた腋の部分から生々しい熱さを感じた。俺を突いていた動作は止まり、相手が身体を離すと腋の下が白濁液で汚されてどろどろになっていた。それは腋だけでなく俺の着ている服にまで飛び散ってしまったらしかった。この服も汚しちゃ駄目だってのに、本当に何も考えてない連中だな――。
「ああっ、んっ、ふぁ……っ」
 急に身体が不安定になり、下半身が持ち上げられて前のめりに倒れかけた。俺の前にいた相手の身体を支えとして転倒は免れたが、前の彼は床に座り込み、俺は彼の脚の上にうつ伏せで寝転ぶ格好になった。
 硬いものが欲しくて手を伸ばし口に入れた。相手が喜んでくれるとかそういうことはもう関係なくて、歪な記憶が確かにそれを欲しているようだったんだ。すっかり熱くなっている身体はまだ満足できないと主張し、目の前の誰かから全てを絞り取らなければ安息の地へ帰ることはできないのだと感じた。
「水瀬、美味しい?」
「んうっ――えっ?」
 何かこれまでと違うものを感じ取り、一気に目が覚めた心地がした。それが後ろから感じられるものだと気付くまでに少しだけ時間が必要だった。
「え、な、何して……えっ?」
「わりぃな、やっぱ我慢できねぇから」
「う、嘘だろっ? そんな――う、あっ!」
 具体的に何をされているのかは見えなかったけど、俺の後ろの穴に指が入ってきたことが直感的に理解できた。無理矢理二本ねじ込まれているようで、ぐいぐいと穴が広げられていく。
「そういうことは、し、しないって言っただろ! うそ、嘘つきやがったのかよっ!」
「こんだけやってりゃ、これ以上やったってそれほど変わらないだろ? いいじゃん別にさぁ」
「嫌だ――やめろ、やめてくれ!」
 俺が叫ぶと同時に大きな音が聞こえた。それを機に中に入っていた指の動きも止まり、室内に異様な静寂が漂う。なんとか身体を起き上がらせてこの空気の正体を探ると、あろうことか教室のドアが開いて円先生が驚いた表情で立っている様が見受けられた。
「……君たち」
 先生の一言で俺を囲っていた連中は竦み上がった。よく見てみると、最初は五人いたのに一人減っていることに気付く。
「これはどういうことなのか、説明してくれるかな」
「調子に乗ってました、すみません!!」
 真っ先に土下座をしたのは三宅だったらしい。彼に続いて他の四人も慌てて頭を下げ、微笑みの中に殺気を宿している円先生がゆっくりとこちらに近寄ってくる。
「そうびくびくすることはない。僕は全く怒っていないからね。ただ少し嫉妬してしまっただけだ」
「は」
 思わず口から声が漏れてしまった。なんだかひどく嫌な予感がする。忘れていたが、この円輝美という名の先生は変態なんだった。また何かとんでもない変態ちっくなことを考えている可能性も大いに有り得るということじゃないか。
「水瀬君がこんなに素敵な格好をしていたら、君たちが欲情するのも決しておかしくはないからね。ただ水瀬君はどうやら挿入はアウトらしいんだ。だからそれ以外のことだけで楽しんでくれないかな」
「ちょ」
「せ、先生……ありがとうございますっ! うおお!!」
 勢いづいた三宅に押し倒され、そのまま唇を塞がれた。あの先生、やっぱりろくなこと考えてねえな! こういう場合って普通は生徒を叱るべきなのに、なんで行為の助長を軽々と許してんだよ!
「は、あ……っ!」
 ただ一度目覚めた頭でも、まどろみの中に戻るのに長い時間など必要なかった。相手に俺の中心を弄くり回されただけで俺はもう普通に息ができなくなる。仰向けに倒れたまま彼の硬い棒を口に入れられ、上下に動いてくる相手のことを溢れる唾液で迎え入れた。ぼんやりした瞳が不意に壁を探って漂った時、満足し終えた他の連中が携帯で写真を撮っている様子が目に入った。先生は俺の姿をじっと見ている。その手がゆっくりと白衣の上を移動し、自身の下半身へ伸ばされた刹那を俺は見逃さなかった。
「くっ――水瀬! 出すぞ、口に出すからなっ!」
「ん、んんっ!」
 膨張していたその中から熱いものが飛び出してくる。舌の上に粘り気のある液体を注ぎ込まれ、一滴残らず出尽くしたなら相手は俺の上から身体を退かせた。
「俺もいいか、水瀬――」
「ふぁっ……あ、あ!」
 続いて後ろに立っていたもう一人が彼自身を俺の顔に突き出してきた。意図を察した俺は口を開き、まだ先の男の種子が残っているまま次の男のものを受け取っていく。それは勢いあまって飛び散ったおかげで唇や顎を汚されることとなった。
「凄いねぇ水瀬君、一気に四人の相手をするなんて」
「先生、四人じゃなくて五人だぜ。さっきまでは矢田もいたから」
「へえ?」
 すっかり上機嫌になっている連中は何やらのんきにお喋りをしていた。身体に力が入らなくて寝そべったまま天井を見ていると、誰かが靴音を響かせながらこちらに近付いてきたことに気が付いた。ぐいと頭を横に向けると、いかにも古そうな革靴が視界に入る。
「大丈夫かい?」
 隣にしゃがみ込んで声をかけてきたのは先生だった。俺は話そうと口を開きかけたが、まだ口内に連中の精液が残っていることを忘れており、ぱたりと口を開いたなら唾と混じったそれがどろりと床の上に零れ落ちてしまった。
「あっ、水瀬! てめえなんで捨てるんだよ、そこは飲まなきゃ駄目だろうが!」
 すかさず突っ込みを入れられたが、俺だってそこまでしてやる義務はないだろう。こいつらは何かとても大きな勘違いをしているのではなかろうか。とりあえず口の中のものを全て床の上に吐き出し、ようやく麻痺が治まった身体を起こしておくことにした。
「それにしてもどうするんだい、その服と髪。洗濯しなきゃならないねぇ」
「う……」
 改めて自分の姿を確認してみると、それは思わず後ずさりしそうなほど汚らしかった。髪から垂れ落ちた液体が服を汚し、腋にべったりくっついているそれも服にたくさん飛び散っている。ついでに一つしかないはずのカツラにまで射精され、このまま部屋に帰ろうものなら亮介に半殺しにされかねない事態に陥っていた。あいつらちょっと調子に乗りすぎだろ。後で亮介っぽいやり方の嫌がらせでもしてやらなきゃ気がすまんぞ。
「加賀見君に見られるといろいろまずいよね、よかったら僕の部屋で洗っていくかい? シャワーも貸してあげるから安心して」
「や、それは結構です!」
「おや」
 この場にいる他の誰よりも警戒すべき人が何やら甘い誘いを持ちかけてきたが、それはあまりにも分かりやすすぎる罠に他ならなかった。俺が全力で否定すると先生はなぜか驚いた顔をした。いや、これまでのことを考えたら俺が否定することくらい予想できるだろうが。
「それより水瀬、お前まだいってないだろ? 洗うんなら先に思いっ切り汚してから洗った方がいいんじゃねぇの?」
「お、俺は別に、そんなこと――」
 もはやギャラリーと化した四人組は少し離れた場所に立っていた。きちんとズボンも穿いて何事もなかったかのような顔で俺を見下ろしている。ただそこにいる誰もが薄っすらとした笑みを浮かべていた。あいつら絶対に面白がってやがるな。
「水瀬君」
 ぽんと肩に手を置かれた。そちらに顔を向けた拍子に唇を塞がれる。
「ん――っ!」
 キスされたまま下半身を触られ、熱を帯びたままだったそこを器用な手つきで刺激された。目の前にある四角い眼鏡のフレームが頬に触れ、肩に置かれていた手に力が入りぐいぐいと後ろへと押されていった。少し移動した先には壁があったらしく、俺は背中を壁につけて相手からのキスと愛撫から逃げられなくなった。
「や、やめろっ……やめて! 触る、なぁ……っ!」
「その表情、可愛いね。もっと見せておくれよ」
「ひぅ――っ!」
 クラスの連中にやられていた時とは違う、今度の相手は経験豊富な慣れた大人であることが分かった。一気に身体から力が抜け、壁にもたれ掛からなければ座っていることすらかなわなかった。執拗に首筋を舐めてきたかと思うと耳を軽く噛まれたり、鎖骨や乳首を細い指で弄られておかしな感覚に抵抗できなくなっていく。
「やめ、ひゃめっ……!」
「呂律が回らなくなってきたかい? ふふっ」
 先生は笑いながら俺の身体をおもちゃにしている。身体の至るところを弄ばれたが、片方の手はずっと俺の最も敏感な場所を刺激し続けていた。そのせいで頭がおかしくなりそうで、出したくもない喘ぎ声が途切れることなく溢れてしまう。
「君はいい反応をするねぇ……やはり僕の思った通りの子だった。感じやすく、照れやすい、そして何より慣れていないから新鮮でいい。加賀見君も可愛い子だとは思うけどね、彼にないものを君は持っているんだよ。それが何なのか――んっ、分かるかな、水瀬君?」
「ひぁあっ! 分かんな、分かんないってぇえっ!」
 ぴたりと太ももに何かを当てられた。それはいつの間にか大きくなっていた彼の雄であり、一気に悪寒が走って身体が小さく痙攣する。
 何をされるのか分からなくて、はっきり言って怖い。こんな状態じゃ逃げられないし、俺は相手の手のひらの上で転がされているも同然だ。まるであの日の再現が今から成されるような、そんな恐怖感が身体じゅうを更に縛り上げていく。
「怖がらなくていいよ、中に入れるわけじゃないからね。君に嫌な思いをさせたいわけではないもの」
「は……はっ、ふぁっ……!」
 俺を安心させるような優しげな声を囁かれ、どうにか息を整えると痙攣も治まってきたようだった。俺が落ち着いたのを確認すると相手はまた唇を奪ってきた。今度は二つの唇を重ね合わせるだけではなく、亮介に教えられたような舌も使った深い接吻を要求された。その体勢のままで下半身を激しく刺激される。
 気が付けば先生の口からも荒い息が漏れ出していた。ともすれば亮介よりも慣れているその手つきに酔いしれながら、俺はひたすら高まっていく興奮をどこか別の場所から見ていたのかもしれない。何も考えられないはずなのに、彼の指の一本一本が絡み付く感触が恐ろしいまでに気持ち良かった。その流れで下の穴に指を入れられたりしていたようだったけれど、それさえ怖くなくなるほど相手のやり方に夢中になってしまっていた。
「気持ちいいかい?」
「あ……はっ、はぁ……」
 質問を投げかけられても答える余裕など残っていなかった。それよりも今は別のものが欲しかった。だらしなく脚を大きく開き、相手の指の動きを無条件に待ち望む心理が嘘のように響いていた。再び硬いものが太ももに触れ、それは擦り付けるように上下に動いていた。腋や口で受け取った感覚を思い出し、それより幾らか大きそうなそれに自ら手を伸ばして触ってみる。
「おや、君がしてくれるのかい」
「なっ……なんで、こんな、大きい……」
「何故と言われても」
 相手は大人なのに理由を知らないらしかった。それ以前に俺は自分が何を言っているのか分かっていないのかもしれない。手で触れたそれをきゅっと握り、根元から先端まで長さのある距離を堪能しながらゆっくりと扱いていく。
「あぁ、いいね……実にいい、そのぎこちなさがたまらないよ。さあ、君のようないい子にはご褒美をあげないといけないね」
「ふ……あっ――」
 それまで一度も離れなかった彼の手が、張り裂けんばかりに膨張していた俺のそこから離れてしまった。同時に下の穴を広げようと動いていた指も外に出てしまう。その瞬間に恐ろしいくらいの物足りなさを感じた。
 先生は少し微笑みながらキスをしてくる。そして俺の息を奪ったままの姿勢で再び下の方の穴に指を入れられた。
「んっ……え? あ、な、なにこれ……っ!」
「ご褒美だよ」
 指の他に何か違うものが入っている感触があった。ただそれは丸くて小さなものだということくらいしか分からない。
「水瀬君はいい子だからもう一個入れてあげようね」
「ふぁっ! ま、待って……へ、変なもん、入れないで――!」
「変なものなんかじゃないよ。君は可愛いからあと一個おまけで入れてあげるね」
 再び指が侵入し、同時に硬いものを入れられる。おかげで先に入っていた物体が奥の方まで押し込められてしまい、なんとも言い様のないおかしな感覚に襲われた。ただそれは不快なものではなかった。慣れないせいで分からないのかもしれなくて、本当はとても素敵なことなのかもしれない。
「んっ……」
 何度目か分からない接吻を受け取り、戻ってきた下半身の刺激を大人しく堪能する。もはやこの状況がどんなものであるのか、それすら理解できないほどこの光景はぼんやりと掠れてしまっていた。
「ん――ふ、あっ!」
「どうだい、気持ちいいかい?」
 穴の中で何かが振動していた。それは生身の動きではなく機械的で殺伐とした、だけど奥にまで侵入したせいか脳内に多大な信号を送り込んでくるものだった。更に追い討ちをかけるかのように二本の指が入ってくる。それらは俺の中を執拗にかき混ぜ、振動し続ける何かと合わせて頭をおかしくさせるには充分な要素だった。
「あぁっ、あ――は、ふっ、ふぁあっ!」
「ん、どうしたんだい? ちゃんと言葉で伝えないと何が言いたいのか分からないよ」
「そっ、そんなの……俺だって、分かんな――ひあぁっ!」
 相手の指が触れた場所が軽く痙攣する。今までの反応とは明らかに異なる様を見て、彼は何やら満足げに大きく一つ頷いた。
「中だけはタブーかと思っていたけれど、やはり君でも感じる箇所はあるんだね。面白い……」
 相手が何を言っているのか分からない。身体が前のめりに倒れかけ、相手に受け止められて辛うじて座っていられる姿勢になっていた。彼の指が俺の中を出たり入ったりと繰り返していた。そのたびに丸い物体は奥へと押し込まれ、身体の中心にまで到達しそうな場所で小刻みに振動している。
「分かるかな、水瀬君? もうずいぶんと君の穴は拡がってしまったよ。本当ならこの中に指や玩具じゃないモノを入れたいんだけど……それは無しだと言ってしまったからね。とても残念だよ。次の機会には中に入れても抵抗がないよう、今日は僕がここから感じられる快楽というものを教えておいてあげるよ」
「あぁ、あっ! ま、待って――そこ、やめ、ひあぁっ!」
 深くまで指が入り込み、先程と同じような痙攣が身体を包む。指の出し入れは更に速度を増していき、気付けば二本から三本に増えているようだった。そして恐ろしいことに相手の手は俺の中心への刺激を完全に止めていた。それなのに感じるのはこれまでと同様か、あるいはそれ以上の強くて大きな快楽でしかなくて。
「あっ、ん、んん――っ」
 キスをして息を奪われることが心地よかった。穴を弄られることも気持ちよくて、自分でも理解できないまま、白衣の上から先生の首に腕を回していた。口から零れ落ちる唾液と声を人目も憚らず露呈し、侵入してくる相手の舌に今日一番の快楽を得る。もう元の場所には戻れなかった。ああ、俺はこの崖を、一体どこまで落ちてしまったのだろう――。
「あ、で……出る、出るっ、ああっ、あ、あああ――っ!」
 やがて俺はそこへ達し、抵抗もできぬまま先生の腕の中でたくさんのものを放出した。溜まっていたはずではないのに指で誘導されると大量に溢れ出し、結果的にスカートと床と先生の指がどろどろになるまで白い液体を出してしまった。
 なんだか頭がふわふわして身体じゅうが痙攣する。ふっと目の前に影ができたかと思うと顔に熱いものがかけられた。そのすぐ後に見慣れた大きな棒を口に入れられ、あらゆる液で汚れているそれを舌で舐めて綺麗に掃除してあげた。
「はぁ、はぁ、ふぅ……気持ち良かったよ、水瀬君。ふふ……せっかくの化粧も台無しになっちゃったね」
「ば、バカ……野郎」
 身体に力が入らない。腰が抜けて立ち上がれないし、世界がぐるぐる回ってもう何が何だか分からなかった。
「今度する時は、ちゃんと中に入れられるように頑張ろうね。僕が君にいろんなことを教えてあげるから、少しずつ慣れていこう」
「そんなの、やだって……」
「おや、まだぼんやりしているのかい。君は感じやすい子なんだね。可愛いな」
 再びキスされる。ただでさえ苦しいのに、息が奪われて何もかもがぐちゃぐちゃになってしまった。
「これをお飲み」
 キスの後に小さな錠剤を口の中に入れられた。疑うことを忘れていた俺は素直にそれを喉の奥に流し込んでしまい、胃に侵入した頃になって突然不安になってしまった。
「何を飲ませたんだよ――」
「身体の疲れを取る薬だよ。麻薬とかじゃないから安心して」
「う、嘘じゃねえだろうな」
「可愛い生徒に麻薬を飲ませる先生なんていないじゃないか」
 先生の言葉が脳裏にがんがん響き渡った。疲れているせいか、それともさっきの薬のせいか分からないけど、目の前の景色がぼやけて身体からどんどん力が抜けていく。
 やがて強烈な眠気が襲い、逆らう為の力を失っていた俺は何もできないまま無意識の中へ飛び込んでしまった。

 

 +++++

 

 目が覚めると俺は自分の部屋で寝転んでいた。身体を起こして周囲を見回してみると、鏡に向かって熱心に化粧をしている亮介の姿が確認できる。
「なんだ、ようやくお目覚めか」
「……俺、何してたんだっけ」
 目覚める前の記憶が曖昧になっている。確か衣装の「お披露目」をしていたことは覚えてるんだけど、その後あたりからの記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。
「円センセーがお前を部屋まで運んできたんだ、学園祭の準備しててぶっ倒れたんだとさ。相変わらず弘毅はバカだな、倒れるまで頑張るとかバカの鑑じゃねえかよ」
「そうだっけ……」
 何かとんでもなく重要なことを忘れているような気がする。だけどいくら考えを巡らせてみても答えが出てくることはなく、俺はもうそのことは忘れてしまうことにした。
 きっとすぐに忘れてしまうようなことは大して重要じゃなかったってことなんだ。だったらそんなことに意識を取られて立ち止まってる場合じゃない。大事なのは今までどうだったかということじゃなく、これからどうすべきかということなんだから。
 そんなふうに無理矢理プラス思考にしてみると心もすっと楽になった。やっぱり何かが引っ掛かる気がするけど、特に変わったこともなく普通に暮らせているんだから、これからの未来に期待して今を精いっぱい生きていこうと考えたのであった。

 

 

 

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