Nocturne X 思惑
青年は空を見上げ続ける。
風が吹くとき、黒い布に隠された彼の金色の髪が揺れた。
瞳の中に写るのは空ではない。それは遠い過去を思い返しているからなのか。
溢れてきた涙の雫と共に、彼の口から言葉が零れた。
「全てはあなたの為に――」
違う。そうじゃない。俺はあなたの為だけにこんなことをしているのではない。
俺が自分を捨ててまでもこんな存在になった理由。それはきっとあいつのためでもあると思う。
あいつがどんなことを考えていたのかとか、今はどこで何をしているのかはやっぱり分からない。
それでも少しでもあいつに近づけるようにと思って俺はこんな姿になったんだろう。
変な話だよな、自分で自分のことが分からないなんて。こんな奴だからあいつに裏切られたんだよな。
いや、裏切られたんじゃないか。あいつはあいつで自分の信念を押し通した。自分の信じていたことをやり遂げたんだ。それのせいで俺はこんなことになってしまったんだけど。
ああ、そうだなぁ。昔のことは懐かしいよ。本当に今でもあの時のことを考えると涙が出てくる。
まだあの扉の冷たさが忘れられないなんて。あれから何百年経ったと思ってるんだよ、まったく。
それでも未だに俺は上に立てないんだよなぁ。なんか上に立つと何もかもを見失ってしまいそうで、部下みたいな奴らにも敬語を使っちまう時もあるから。
いいのかね、俺がこんなこと言っても。
俺は自分のやってることは間違っちゃいないと思ってる。でもどうしても対立する人は出てくる。
その時はそいつのことをよく観察するんだ。ほら、俺って優しいし、何より昔は観察者って肩書きだったし?
ははは、随分性格変わったよなー、俺って。自分で言うのもどうかと思うけどさぁ。
あいつは今どうしてんのかねぇ。俺を裏切っていったあの元親友さんは。
昔の俺は、馬鹿だった。
そして今の俺はもっと馬鹿だ。
アナエル、らい。二人ともさ、今の俺を見たら笑うよな。
笑ってくれるよな?
俺は神の代わりだけど今は違うって言ってくれるよな? 今は神じゃなくてアスターという存在だと言ってくれるよな?
認めないからな。
簡単に神の代わりに成り下がるようなことはしたくないんだ、本当は。だから神を甦らせる。神が甦ったら俺は必要なくなるから、そっちの方が気が楽だから。
そう思わないのは俺より馬鹿な奴だけだよな。
なぁ、俺のやり方、おかしくなんかないよな?
なぁ……。
完