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ようやく見慣れた家に帰ってくると、ほっとせずにはいられなかった。
中では弟がおれの帰りを待ちわびているだろう。彼を安心させてやらねばならない。
たとえ姿が変わっていたとしても、彼なら分かってくれるだろう。
村の外れにひっそりと佇む家の前で少しだけ立ち尽くし、すっかり小さくなった手をドアノブへと伸ばした。気づけばドアも随分大きく感じられる。ドアノブの位置も高く、背伸びをしなければ開けられなかった。
古い扉ならではの嫌な音と共にドアが開く。家の中へ一歩踏み出すと、ばたばたと慌ただしい音が聞こえてきた。
「兄上、帰ってきた――」
目の前に飛んできた弟は予想通りの反応をした。まず驚きを顔面に浮かべ、次に頭の上に疑問符を掲げる。
「信じられないかもしれないが、おれはソルだ」
「ほぉ。私の兄上と同じ名前なのか」
懐かしい笑顔がすぐ近くにあった。しかし、ちょっと待てと言いたい。
「だからおれがお前の兄なんだ」
「変な冗談などを言っていると『闇の意志』に食べられてしまうぞ? 君は、ひょっとしなくても迷子なんだな。うちは部屋がたくさん空いている、知り合いが迎えに来るまででも居候していても問題はない。しかし、素直に助けてほしいと言えばいいものを」
とっても素敵な笑顔を見せつけながら弟はぺらぺらと喋る。人の話なんか聞いちゃいない。
おれが弟の性格を忘れるわけがなかった。
そう、こいつは、一度信じたものは決して疑わないようなややこしい性格をしていたんだ。
おれはもう、幸せだとか喜びだとかを思い出せなくなってしまった。