エピローグ
――Silent World――

 

113

 慌ただしい日々が過ぎ去り、何もすることがなくなった日がやってくると、急に慌ただしかった日が懐かしく思えたりするものだ。
 俺が異世界から帰ってきてからすでに何ヶ月かが経過していた。
 リヴァセールは相変わらず俺の家に居座り、まだ共に学校へ通ったりしている。珍しい外国人の生徒の二人目であるラザーラスもまた学校に通っており、それが今では普通であるように思えたりもした。
 アレートはスイベラルグの世界に戻り、ガルダーニアの国を再建しようと努力している。ロスリュは俺の故郷にあるワノルロの湖に帰った。カイは昔と変わらずアメリカに居座っており、行方が分からないのはジェラーとシフォン、そしてオセだけだった。
 大きすぎる魔力を抱え、シンはあの時すでに限界を超えていた。それを抑えてくれたのがオセだった。何も語らずに呪文をかけ、そしてそのままどこかへ行ってしまった。俺との契約も、そこで終わってしまったんだろう。
 シンとスーリは二人ともスイベラルグの片隅で生活している。そこには当然シフォンもいるのだろうと思っていたけど、二人の傍には誰もいない。シンに聞いても何も答えてくれず、ただ「この方が幸せだから」と呟くだけだった。
 二人の命は冬には終わると言う。役目が終わったから、跡形もなく消え去ってしまうのだそうだ。
 俺もまた二人と共に命が終わることになっていた。しかしそのことを話したら、まだ身近にいた藍色の髪の少年は、俺はまだ死ぬべきじゃないからと言って何かの呪文をかけてきた。それ以来、俺は少しだけ頭が良くなったような気がする。その後に少年は姿を消してしまったのだけど。
 振りかえってみれば、あれは全部夢だったんじゃないかと思える。兵器とか一族とか闇の精霊とか、そんなものは現実には少しも存在しなくて、俺はただ夢を見続けていたんじゃないかと思える。しかしそう思っていると、隣にいる外人はどうなる? 学校にいる不老不死の青年はどうなる? 俺はまた、あれは現実だったんだと思わざるを得なくなる。
 精霊たちはまだ俺の傍にいた。腕輪を常に持ち歩くことはなくなったけど、ときどき異世界から契約をしたいと望む人が家に押しかけて来ることがある。そういう場合はすぐにリヴァに頼んでカイの家に飛ばしてもらい、そこで精霊を召喚して契約する様を見学していた。
 アレートやロスリュにはたまに会いに行った。二人とも相変わらずで、ガルダーニアの国の復興はなかなか難しそうだった。それでも幾人かがアレートの手伝いをして、今では小さな街としてガルダーニアは存在している。
 シンとスーリにも何度か会いに行った。しかしシンにもう来るなと言われ、それ以来一度も顔を見ていない。二人とも以前のままだった。そのままの二人だった。
 皆それぞれ目的を見つけ、そのために生きている。それは他人から見ればちっぽけな、つまらないもののように見えるかもしれない。だけど結局人が望むものなんて、そんなものなんじゃないだろうか。
 なんとなく日々を過ごし、さらに何ヶ月か経過する。季節は雪の色に変わり、今日はこの地方では珍しい大雪だった。
 冬休みになってゆとりができ、家で何もせず過ごす日が増えていた。しかし今日は突然用事ができた。なぜなら――今まで行方不明になっていたシフォンがスイベラルグの世界へ来るように言ってきたからだ。
 それだけで俺は、何が起こったのか理解することができた。

 

 

 

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