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34 

 一瞬、時が止まったような気がした。
 自ら口を開き、その正体を明かした少女。彼女は礼をした後ふわりとその場に座り込んだ。
「……な」
 ようやく口を開いたのは俺じゃない。外人だった。
「せ、精霊だって? それに、属性が星?」
「はい、そうですよ」
 目を細めて微笑むエミュ。その笑顔を見た外人はなぜだかひどく動揺しているようだった。
「は、初めて見た! 星の、精霊なんて!」
 よく見れば目を見開き、まるで珍しいものでも見ているような顔をしている。それに顔には汗が流れ、普段よりも落ち着きのないことは見ればすぐに分かった。
「あー、驚いてるとこ悪いんだけどさぁ。あたいらのことも忘れないでね?」
 どこかばつの悪そうな表情でコリアは言う。俺に言ってきたのかもしれないがどうにも誰にも視線を合わせていないようだ。
 忘れてなんかないさ。そりゃあ驚きはしたけど。
「まったく、言っちまったもんは仕方ないな」
 その言葉の後にはため息が聞こえた。声の主は他でもない、あの真面目なお人好しのスルクである。
「そうねぇ。いい機会だしばらしちゃおっか? ねえスルク?」
 コリアはにやりと笑う。なんだか怪しい。
 そうかと思うとコリアは立ち上がり、ついでにスルクの腕を掴んで立ち上がらせた。そして声を高らかにあげて言う。
「あたいの名前はコリア。太陽の精霊よ! ほら、スルクも!」
 金持ちのお嬢さんは思いっきりスルクの背中を叩き、静まり返った空間にうるささが戻った。そしてスルクは渋々と小声で言う。
「……俺は、月の精霊だ」
 それだけを言うと二人は座り込んだ。
 風のように俺の前に現れてきたこの三人は自分達のことを精霊だと言った。星と太陽と月の精霊。なんだか地球のことを思い出してしまう。
 この三人は何者なんだろう。もし精霊が元は人間だったならどうして三人は精霊になったのだろう。
「そんな、まさか!」
 横から驚いている声が聞こえる。でもそれは俺の予想した人物の声ではなく、まったくの予想外の人のものだった。
「あなたが月の精霊!?」
 そう言って目を丸くしているのは先程まで微笑んでいたエミュだった。
「そうだったんですか? どうして言ってくれなかったんですか! 全然分からなかったじゃないですか!」
 なぜか怒っていた。なんだエミュは二人が精霊だってことを知らなかったのか?
 怒られたスルクとコリアは顔を見合わせ、何やら困ったような表情をしていた。しかしやがて立ち上がりまっすぐこちらを見てきた。
「地味地味君。あたいらと契約しましょう」
「へ?」
 そしてわけの分からないまま話は突拍子のない方向へ進んでいこうとしていた。誰も説明をしてくれないがそれは自分で考えろということなのか。悲しい。

 

「本当ならね、あたいはあんたの力を見なければならないのよ。でも今はほら、タシュトのせいでこの世界は不安定だし? だから今回はタダで契約してあげる」
「はあ」
 いまいち相手の言っていることの意味が分からなかったがタダということは楽ができるということなのだろう。それならそれでいいかと思ってしまう。
 俺は立ち上がり、コリアの前に立った。赤い瞳がじっと俺を見つめている。
「あたいが聞くのはあんたの信念。それが何なのかは聞かないけど、それを最後まで貫き通す自信はあんたにはある?」
 エナさんやエフの時と同じようにやはり質問をしてきた。簡単なようでそうでない、明確なようで曖昧な質問。俺はそれに素直に答える他はない。
 自分の信念。俺の信じるもの。俺の為すべきこと。決して見捨てることもなく、最後までつきまとってくる思いのかたち。
「はい」
 自信があったわけではない。だけど貫き通したいという思いは確かにあった。俺はまだ信念の全貌を知らないだけだ。知らないけれど答えずにはいられなかった。
「そうこなくっちゃね。では。あなたに契約を。遥か天空より光をもたらす陽の心を、私は契約者に託す」
 ばっと辺りに光があふれ、その眩しさに少し目を閉じる。光は俺のポケットの中へ吸い込まれるように入っていき、完全に消えるとそこにコリアの姿はなかった。
 消えた。一体どういう――。
「樹。俺とも頼む」
 今度はお人好しさんが立ち上がった。でもちょっと待ってくれよ。
「どういうことなんだ? コリアがいなくなっちまったぞ? どこ行ったんだ?」
「それは心配するほどのことじゃない。それより樹、早く済ませてしまおう。質問するぞ、いいな?」
「…………」
 彼は俺の質問には答えてくれなかった。これでは何がどうなってるのかさっぱり分からない。
 そしてそんな俺の考えも知らずにスルクは早く済ませるべく話し始める。
「質問だ。樹、お前は善と悪を見分けられるか?」
 善も悪も何もないじゃないか。俺には分からないことが多すぎるんだ。知っても知っても知らないことはあふれていてすべてを知ることなんて不可能なんだ。
 それに時々分からなくなる。自分が自分じゃないようで、妙な感覚に襲われたことが何度かあった。その時俺は正気だっただろうか。俺は俺だったのだろうか。
 それでも俺は善と悪が分かる人になりたかった。だから希望する形で答える。
「はい」
 強くそう願った。
「そうか。ならば、あなたに契約を。世界の影を見守りし月の心を、私は契約者に託す」
 コリアの時と同じように光があふれて眩しくなった。そして光が消え去るとすでにスルクの姿はどこにもなかった。
 二人とも消えてしまった。一体どこへ行ってしまったというのだろう。分からない。
「お、おいおいおい。そんなにポンポン契約してるけどそのせいで世界が元に戻らなかったりしないよな?」
 端から見ていたのだろうグレンが口を開く。今まで関係なかったのでずっと黙ったままだったが、さすがに心配になったのだろうか。
「はっ、そうだった! 俺さまは精霊を元に戻さねばならないのに!」
 いきなり立ち上がるのはオレンジの髪の兄ちゃん。そういえばこいつも黙ってたな。
「やい! 精霊を俺さまに渡せぃ!」
「あのなー」
 進歩がないというか何というか。正しいことをしようとしているらしいから文句は言わないでおくけど、敵役だったら容赦なく言いたいことを言ってやるところだ。
「そうは言うけど、ほら、どっか行っちゃったし」
 どこに行ったんだろうな。突然消えるなんてそれこそ非常識だ。
「それは樹さん。あなたの持っている石の中に行ったのですよ」
 背後からの声。振り返るとそこには輝きを持つ星の精霊がいる。
 少し俯きながら、それでも視線はこちらを捕らえたまま相手は言った。
「召喚呪文を唱えるときは気をつけてくださいね。呼び出す精霊のことをちゃんと言わなければ誰が出ていいのか分からなくなりますから。覚えておいてください」
「へ? ちょっと」
 何だって? どういう意味なんだ?
 俺はポケットの中を探り一枚の紙を取り出す。そこに書かれてあるのは呪文の言葉で、もちろんだがまだ少しも覚えられていない。
「私たちは国を守る存在です。ですがエナやエフとは違い、私たちには任されている国はありません。すべてを守らなければならないのです。だから私たちは一方に偏ることはできません」
 エミュは続けて淡々と語る。
「私たちは動けませんでした。もし青き星のタシュトを止めるようなことをすればそれは偏ったことになってしまう。どちらとも味方にも敵にもならなければならない、たとえどちらが間違っているか分かっていようと。でもあなたと契約すれば、あなたと共に行動できるようになれば、その心配もなくなるのです。忘れないでください。エナは聖なる精霊。エフは博学なる精霊……」
 慌てて外人からペンを借り、紙の空いている部分に書いていく。エナさんは聖なる、エフは博学なる精霊。
「そしてコリアは遥か天空より光をもたらす陽の精霊、スルクは世界の影を見守りし月の精霊。最後に私は幾千年の年を越えし星の精霊です」
 無造作にペンを走らせ、とりあえずすべて書くことができた。だけどこれって何の意味があるんだ?
「あなたに質問します、樹さん。正直に答えてください」
 一番最後に残されたエミュからの星の精霊の質問。なぜだかひどく緊張する。
 まっすぐ目をそらさずに見てくる相手の顔は、今まで見てきたものの中で最も厳しいものだった。
「あなたには孤独に打ち勝つ強さはありますか?」
 そしてそれは最も答えにくいものだった。
 俺は孤独というものを知らなかった。昔はどうだったか忘れてしまったが覚えている限りでは自分は常に人に囲まれて生きてきた。だから孤独を知らない。
 それをどう答えたらいいだろう。本当に孤独になったとき俺がどうなるかなんて誰にも分かるものじゃない。自分にだって分からないのだし。
「どうですか?」
「それは」
 いつものように答えることはできなかった。どうしても言葉に詰まってしまう。それはきっと嘘を吐きたくないから。
「俺は」
 分からないです。
 だけど怖くてそう答えることすらできない。
 このままじゃ契約に失敗ってことになるのだろうか。
 なんだかそれはすごく情けないように思えてならない。
 俺はやっぱり、情けない奴なのかな。
「……俺は」
「樹は大丈夫だよ。孤独になんかならないから」
 思わず言葉を中断してしまった。なぜならものすごく唐突に驚かされる言葉が耳に入ってきたから。
「ぼくが孤独にはさせないから。きっと傍にいてあげるから」
 後ろから声は続ける。恥じらいもためらいもないはっきりとした口調の言葉。
「あんな思いをする人はいちゃいけないんだ。あんな思いをする人は、ぼくだけで充分なんだ。人は孤独じゃない。絶対に彼を見捨てないとぼくは誓う!」
 次第に声は大きく張りのあるものへなってゆく。
 なぜだろう。いつもなら冗談か何かのようにしか聞こえないはずなのに今は本当のようにしか聞こえない。
「分かりました。いいでしょう」
 ただ単純に嬉しかった。
「あなたに契約を。幾千年の年を越えし星の心を、私は契約者に託す」
 光があふれ、やがてエミュは消えた。俺はペンを握り締めたままその場に立ちつくす。
 一気に人が減ったためその場には俺を含めて四人しかいなかった。さっき俺の後ろで喋っていた人は立っているのだろうか、それとも座っているのだろうか。
 ぎゅっと唇をかみしめていつもの顔に戻って振り返った。
「リヴァ。ペン返すわ」
 相手にペンを差し出す。相手は立っていた。
「あ、うん」
 そう言って外人はペンを取る。
 しかし相手の手がペンに触れたときそれが妙に思えるほど震えていたことに気づいた。ペンを取るとさっと手を引っ込めてしまったのでそれを隠しているように見えなくもない。
 だったら俺は何も聞かないでやるべきなんじゃないだろうか。余計なことは言わずにいる方がいいのではないだろうか。
 そう考えたからこそ俺は相手には何も言わなかった。

 

 しかしそれはいいとしてこれから俺はどうすればいいのだろう。この場に残っているのは四人だけで、その中でも事情に詳しそうな人は一名のみ。その一名が信用していいのかどうか分からないからなかなか聞けないでいるのだが。
 でもそう考えている暇もない。誰も何も言わないので仕方なく俺が口を開く。
「なあヨス。これからどうすればこの世界を開けるんだ?」
 オレンジの髪の兄ちゃんは座ったままこちらを向き、俺と目をあわせてきた。その表情はいつもよりも真面目なように見える気がする。
「俺さまは精霊を集めるのは知ってたけどそれ以外は知らん」
「はぁ?」
 一体何を言うのかと思えば。じゃあ何だ、ヨスは何も知らないまま精霊だけを懸命に集めていたとでもいうのか? なんだかそれはそれで健気な気がする。
 いやしかしこの自称赤き星の王族でも知らないのなら誰に聞けばいいんだよ。グレンや外人は知らないだろうし、精霊の面々はどこかへ行方不明になってるし。
「樹。それなら精霊を召喚すればいいんじゃない?」
「召喚?」
 振り返ると地面に座り込んでいる外人がいた。さっきまでの様子は微塵もなくすっかり元に戻っているようだ。こいつって立ち直り早いな。
「ほら。星の精霊も言ってたじゃない。君が持ってる石の中にいるって」
 ああ、確かにそんなこと言ってたような。でもよく意味が分からないのも現状である。石の中にいるなんて、そんなのなんだかエナさんみたいだ。
「じゃあ召喚でもしてみるか?」
 そう言ってポケットの中から石を取り出す。もちろんそれはエナさんではなくエナさんから貰った方の物だ。それは相変わらず不思議な輝きを放っている。
 手の中に握ったままだった呪文の書かれた紙を広げ、それを眺めてみた。慌てて書いたから字が汚いのはいいとして、そこには呪文以外にもエミュから聞いた何やらよく分からない言葉が書かれてある。エミュはこれを忘れないようにと言っていた。きっと何か特別な言葉なんだろう。
 とにかく誰でもいいから召喚してみよう。俺は呪文を長々と読んだ。
「精霊よ、三つの属性を司りし聖なる精霊よ。我は願う。魔の力なきこの空の器に、輝きの宿りし欠片より出で、その力を我が前に示さんことを――」
 言い終わっても光があふれただけで誰も現れない。ってことはエナさんか貝なのだろうか。
 するとどこからか頭に響く声が聞こえてきた。
『何か私にご用でしょうか?』
 それは紛れもなくエナさんの声だった。今思えば俺はまだエナさん以外の精霊を召喚したことがない。なんでだろう。
「えっと、世界を開くにはこれからどうすればいいんだ? 俺たちは何をすればいい?」
『これから、ですか』
 姿が見えないのでどこを向けばいいか分からない。どこから声が聞こえているかも分からないから周りの風景を眺めながら次の言葉を待つ。
『それ以前にあなたは私以外の精霊の召喚方法を心得ていますか?』
「へ?」
 なんだかまったくの予想外のことを聞かれてしまった。それはまさにさっきまで考えていたことだったので答えるのに時間はかからなかった。
「エナさんと同じじゃ駄目なのか? そうだと思ってたんだけど」
『エミュに聞きませんでしたか? それぞれの精霊の誰を呼ぶか、きちんと言わなければならないと』
 そんなこと言っていたような言ってなかったような。いや言ってたか。すっかり忘れてた。
「だけど俺さっきエナさんを召喚した時は何も言わなかったんだけど」
『それはあなたが気づかずに私のことを呼んだからです』
 気づかずに、だって? エナさんはさも当然のことのように言ってくれる。俺にはさっぱり意味が分からないのですが。
「それはね、樹」
 後ろから外人が口を挟んできた。どうやら話を聞いていたらしい。
「君、呪文を唱える時に『三つの属性を司りし聖なる精霊』って言ったでしょ。それがそうなんだよ」
「へ? そうなの?」
 それって呪文の一部じゃないの? 何も考えずに言ってたから全然分からなかった。
「ほら、その紙に書いてたじゃない」
 外人は俺の手の中から紙を取り上げ、その中の一部分を指し示す。それはあの分からない言葉が書かれてある部分だった。
「エフの場合は『三つの属性を司りし博学なる精霊』で、コリアは『遥か天空より光をもたらす陽の精霊』、スルクは……」
「あーっ、分かった分かった。つまりその部分だけ変えて読めばいいってことだろ?」
 つまりは、こういうことだ。
 一番初めの文の中で『精霊よ』の次に言う言葉を召喚する精霊によって変える。そしてその言葉というのがエミュに教えられたあのわけの分からない言葉であり、それによって誰を召喚するか決められるってわけだな。
『このことについては私よりもコリアの方が詳しいはずです。コリアを召喚して話を聞いてください』
「そうなのか?」
 あの金持ちのお嬢さんを召喚しろというのか。でもさっきまで普通に話してたのに契約したからっていちいち召喚しなければならないのは疲れるな。
 外人から紙を返してもらい、それを見ながら注意して召喚呪文を読む。
「精霊よ、遥か天空より光をもたらす陽の精霊よ。我は願う。魔の力なきこの空の器に、輝きの宿りし欠片より出で、その力を我が前に示さんことを――」
 これで大丈夫だろう。光があふれだし、辺りが一瞬真っ白になる。
 そして光が消えると目の前にはコリアがいた。
「はぁい。分かんないならあたいが説明してあげるわよ!」
 しかもかなり陽気で、なぜか数枚の画用紙とペンを持っていた。
「何ですかそれは」
「気にしない気にしない! さあ、何を説明してほしいの?」
 気にしないと言われても。気になってしまうものは仕方がない気がする。
 まあいいか。
「これからどうすれば世界を開くことができるんだ?」
 本日三度目の質問である。はたしてこの陽気な金持ちのお嬢さんは答えてくれるかどうか。
「なぁんだ。あんたそんなことも知らなかったんだ。それはねぇ、簡単に言っちゃえば鐘を鳴らせばいいのよ」
「鐘?」
 なんだそりゃ。なんでいきなりそうなるんだ。いつも以上にわけが分からない。ちゃんと説明してほしい。
「まあちょっと待ってなさい」
 そう言ってコリアは地面に座り込み、画用紙にペンで何かを描き始めた。ざかざかと雑そうに何かを描く音が聞こえる。
「できた! ほら、見てみなさい!」
 ばっと画用紙を上げたかと思うとそこにはどこかで見たことのある下手な絵が描かれてあった。はっきり言って下手すぎて何を描いてあるのかさっぱり分からない。
 嫌な記憶を思い出しつつも俺はコリアに聞いてみた。
「それがどうしたって?」
「これは鐘よ」
 そうなのか。俺には黒い塊にしか見えない。
「この鐘の中には精霊の力が封じ込められている。これを一度でも鳴らしてしまえば精霊の力は元に戻るんだけど」
 なんだ、どんな難題を渡されるのかと思っていたがそれなら簡単そうだな。鐘を鳴らせばいいだけだなんて誰にでもできそうなことだ。よかったよかった。
「でもねぇこの鐘、タシュトによって封印されてるんだなー、これが。しかも青き星の内部の城の中にあって、多分見つからずにそこへ辿り着くのは不可能よ」
 よかったことなんてなかった。笑顔が凍りつくというのはこういうことを言うのだろうか。
「で、でもだったらさ、タシュトの奴を倒してからその鐘の所へ向かえば」
「それも無理。あいつは自分が倒されたら鐘が破壊されるように呪文をかけてんのよ。もし鐘が壊されでもしてみなさい。あたいら精霊はそれで最後よ」
 なんてこった。じゃあどうすればいいって言うんだ。それじゃあ成すすべもないんじゃないのだろうか。
「そこで良い考えがあんのよ」
 人差し指を一つ立ててコリアは不敵に笑う。そうかと思えばまた地面に座り込み、黒い塊の描かれている画用紙を隣に置いて別の紙に絵を描き始めた。
 しばらくすると立ちあがり、やはり何を描いてあるのか分からない紙を見せてきた。
「これが青き星の城の中の地図よ」
 どこがそうなんだよ。俺には黒と白のまだら模様にしか見えない。
「タシュトは普段はここにいて、鐘はその反対側にあるのよ」
 コリアは絵を指で指しながら説明するが絵がなくても分かることである。そんなに絵が描きたかったのか。
「鐘を鳴らすにはタイミングが必要よ。タシュトを倒した瞬間に鳴らせばきっと精霊の力は元に戻る」
 なるほど。そういうことか。
 金持ちのお嬢さんはふっと微笑み、最後にこう言い放った。
「二手に分かれなさい。そうすればすべてうまくいくはずだから」

 

 

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